新・マーケティング原点主義 2.
新・マーケティング原点主義 2.
情報革命がもたらす本質的な変化
情報革命の話の前に、産業革命が人々にどのようなライフスタイルの変化をもたらし
たか考えてみよう。本来人間は、多様な価値観を持ち、多様な行動を望む。例えば、
本当なら、既製品のスーツより自分だけのオーダーメイドのスーツが欲しいはずだ。
そのコストと注文してからできるまでの時間を考えれば、既製品で済ますのだ。
しかし、オーダーメイドのコストを注文してからの時間を考えて、オーダーメイドを
諦める。産業革命前はオーダーメイドだったものが、産業革命がもたらした大量生産
による大幅なコスト削減の前に、いつでも安く手に入る既製品にとって代わった。
つまり、人々は産業革命によってコストと時間の恩恵を得、その代わり多様性を諦め
た。産業革命後の社会では、大量のモノを前もって生産する。それには、みんながあ
る程度欲しいモノを予想し、生産したモノをみんなに知らせなければいけない。
そのためにますマーケティングとマスコミュニケーションが必要となり、発展してき
たのだ。
では、情報革命によってそれはどう変化したか。
デルの成功にその答えが隠されている。デルの特徴は、1人1人の顧客の要望に合わせ た注文生産と、情報化による迅速な生産工程、これまでの流通経路を通さない直接販 売である。
つまり、情報革命によって、そのような注文生産システムがなりたち、ユーザ1人1人 の要望に応えたオーダーメイドであったとしても、1品種大量生産のときと比べ、コ ストと時間の差が全くなくなったどころか、コストは下がったのだ。コストと時間の 差がなくなれば、本来の自分が本当に欲しいものを人々は要求しだ出すはずである。 つまり、情報革命によって人々は、諦めていた多様性を、コストと時間を失わずに享 受できるようになったのだ。
トヨタやデルは、顧客の嗜好は多様であることを認識し、予想ではなく、現状を、誰 よりも早く詳細に把握し、ダイナミックに変化することができる生産システムにした からこそ、成功したのではないだろうか。
生産システムの多様化を許容するシステムへの変革と、最後にもう1つ、ワトソンワ イアット代表の淡輪敬三氏の言葉をヒントに、これからのマーケティングはどうある べきか考えたい。友人であり師である淡輪氏の言葉を借りれば、「今後の競争市場で は、顧客が『感動する』何か『圧倒的なもの』を提供しなければならない。ただし、 すべての顧客を相手にする必要はなく、ある一定規模の顧客に対して圧倒的な価値を 生み出す、『変態的』企業が生き延びる」という。
では、今、マーケティングとして何をするべきか?
まず、年齢や男女では区切れない超多様化な価値観を持つ顧客層のトライブ*が無数に あり、それぞれのトライブは境界線があいまいであり、刻々と変化し、そのトライブ にいる人々も刻々と入れ替わっていくことを認識することである。
*トライブ:「部族」という意味なのだが、イギリスの文化研究者が、パンクなどの若 者たちを、音楽の趣味が一致するだけでなく、外見、居場所なども含めて集団性を表現 していることから、トライブと呼んだ。ここでは、嗜好性がよく似た集団のことを指し てる。
そして、トライブ内では、インターネット、メール、携帯電話といった有機的で自律分散 型のコミュニケーションによって情報が伝達されていることを認識することである。
その上で、自社や商品ブランドの「変態的」な強みを認識し、そのエッジのある圧倒的な 強みを基に一貫してコミュニケーションを行ない、ブランドの状態(「顧客は、自社や ライバル会社に対してどのような印象を持っているか」「強みは伝わっているか」 「自社やライバルを受け入れているトライブはどのようなものか」という現状)を誰よ りも速く、詳細に把握すること。
そして、自社やその商品ブランドの変態的な強みと、それを求めるトライブを認識した 上で、アクションを起こし、コミュニケーションを行ない、その結果、ブランドにどの ような影響がもたらされたか、自社やライバル会社を受け入れているトライブはどのよ うに変化したか、いち早くフィードバックを再考し、実行すること。
つまりは、顧客に一様な価値観があると思ったまま市場を予測するという無駄なマーケ ティングをやめ、マスコミュニケーションによって情報は操作できるという幻想をいい 加減捨て、自分と自分のお客様の顔を常にちゃんと見ることに注力した方がいい。情報 技術の革新により、それは可能となるのだ。そう、当たり前なのだけれど、それこそが マーケティングの原点だ。
チームラボ株式会社
代表取締役社長 猪子寿之