MEDIA

2014.12.25

『GQ JAPAN』(2015年2月号)で、チームラボ猪子の連載。

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」
第十八回「
近代以前の知、古来の日本の空間認識 (前編)」


チームラボの代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境を思索する人気連載。今回は、前近代におけるアジア=日本的空間認識の構造について


世界が、日本画のように見えていた


今回は、古来、人類が長年培ってきたにもかかわらず、近代社会とは相性が悪かったために捨てられたものが多くあり、その中に、新しい社会のヒントがあるのではないかと信じているということについて、もう少し詳しく説明したいと思います。

僕らは、近代社会とは相性が悪かったために捨られたものの中でも、特に、近代以前の古来の日本の空間認識を模索してきました。

日本の人々は、近代以前の19世紀後半まで、今とは違ったふうに世界を捉えていて、今とは違ったふうに世界が見えていたんじゃないかと思っています。一般的に伝統的な日本画は観念的だとか平面的だとかと言われていますが、当時の人には、空間が日本画のように見えていたのではないかと思っているのです。そして、現代人が遠近法の絵や写真を見て空間を認識するように、当時の人々は、日本画を見て空間を認識していたのではなかろうかと思っています。つまり、そこには、西洋の遠近法とは違う論理構造が発達した空間認識があったのではないかと考えているのです。近代以前の日本自体がアジアの影響を多大に受けているので、古来のアジアの空間認識とも言えるかもしれません。


古来の日本の空間認識を、

僕らは超主観空間と呼ぶ


僕らは、「デジタルという新たな方法論によって、その論理構造を模索する」というサイエンス的なアプローチを試みています。具体的には、コンピューター上の3次元空間に立体的に世界を構築し、その3次元空間が日本美術の平面に見えるような論理構造を模索しています。そして、この論理構造を、僕らは、『超主観空間』と呼んでいます。

僕らは、平面に絵を描いてアニメーションを作っているわけではなく、作品世界を3次元空間上に立体的に構築し、それを超主観空間によって平面化することで作品を作っています。論理的に平面化することよって、永遠に変化し続ける作品や、インタラクティブ(双方向的)な作品を作ることができます。そして、作品を作ることを通して、超主観空間の平面の特徴や現象を発見し、それを利用することによって新たな視覚体験を試みたり、近現代の人々の世界の捉え方への問いを投げかけたりしているのです。(図1、図2)


人間の目は写真や遠近法のように見えない

 

西洋の遠近法で描かれた絵(図3)は、すごく簡略化すると、画家の視点(図4、青い人型)を原点として、扇状の空間が描かれています(図4)。鑑賞者は、描き手の視点で世界を見ていることになります。写真も細かいことを除けば同じです。


さて、近代以前の日本の人々は、日本画(図5)のように世界が見えていたと仮定しましょう。画家を、仮に(図6、青い人型)とすると、図6の水色の部分が見えていることになります。


こんなふうに世界が見えるはずがないと思うかも知れませんが、遠近法や写真もまた同じくらい不自然です。

 

ある瞬間の肉体としての目が見えている部分は、自分で認識しているよりも、極めて狭く、極めて浅いです。遠近法や写真のように広い空間は見えていません。しかし、人間には時間軸があって、目の玉は動かすし、目のフォーカスも動かしています。狭くて浅いフォーカスで得た多くのイメージを脳で合成し、写真や遠近法の絵のように見

えている気がしているだけだと考えられます。 つまり人間は目という極めて貧弱なカメラで何枚も何枚も連続して周囲を撮影し、そうして得られた大量のイメージを一定の論理構造を使って脳内で合成し、空間として理解しているのだと思うのです。人は首も振るし、歩きます。合成に使うために過去にさかのぼる時間は増えるかもしれませんが、遠近法とは違った論理構造を使って脳内で合成していたと思えば、図6のように世界を認識していたとしても、不思議ではないのです。

 

次回の後編では、古来の日本の空間認識の特徴と、そのように世界が見えてたからこそ、世界への振る舞いが違ったのではないかというお話ができればと思っています。




図1:3次元空間上に立体的に構築した作品世界を、遠近法によって平面化した図(『花と屍 剝落 十二幅対 繁栄と厄災』より)



図2:図1と同じ空間を、超主観空間によって平面化した図(『花と屍 剝落 十二幅対 繁栄と厄災』より)



図3:モナ・リザ

図4:西洋の遠近法を簡略化。扇状の空間が絵に描かれる。



図5:法然上人絵伝


図6:日本画での空間認識。人型を中心に水色の部分が見えている。



GQ JAPAN(2015年2月号/コンデナストジャパン)
2014年12月24日(水)

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