MEDIA

2015.01.26

『GQ JAPAN』(2015年3月号)で、チームラボ猪子の連載。

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」
第十九回「近代以前の知、古来の日本の空間認識 (中編)」


チームラボの代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境を思索する人気連載。

今号は前号につづき、日本の古来の空間認識について。


絵を見ながら、絵の中に入り込める


西洋の遠近法による絵画や写真を見ているとき、その中の登場人物(図1赤い人型)になりきってると、見えている風景が変わります。正面を向いた肖像画の人物になった気になると、鑑賞者がいる世界が見えることになります(図1ピンク色の部分)。

むかしの日本の人々には、図2のように世界が見えていたと仮定しましょう。鑑賞者は日本画を見ています。そして、画の中の登場人物(図3、赤い人型)になりきってみるとすると、図3のピンク色の部分が見えている部分になります。つまり、登場人物に見えている風景は、画とほとんど変わらないことになります。(図3)。画を見ながら、画の中の登場人物になりきったとしても、そのまま同じその画の中の光景を見続けることができるのです。つまり、「画を見ながら、画の中に入り込む」ことができ、鑑賞者は鑑賞者のまま画の中を自由に動き回ることができるのです。

 

日本美術は省きの美ではなく欠損。

雨が線なのは露光時間が長いから

 

余談ですが、西洋の遠近法による空間認識では、前回も少し書きましたが、目のフォーカスを変えることによってパースペクティブを得るのにたいして、古来の日本の空間認識(=超主観空間認識)では、認識している主体、それは画家でも鑑賞者でもあるわけですが、その超主観的主体は、首を振ったりその空間をある程度歩き回ったりして空間を再構成しています。それゆえ、目を通して得られる情報を脳で合成するさい、過去にまでさかのぼる時間(目というカメラでのイメージ量)が、圧倒的に多いと考えられます。

人間の情報処理能力が、同じだとするならば、認識するさいに使う時間軸が長いということは、時間当たりの画面の精度がそれだけ下がることを意味します。つまり、画面に密に情報が敷き詰められておらず、欠損が多いということになるのではないか、と想像できます。日本文化は、よく省きの美みたいなことを言いますが、もしかしたら、単に空間の中で、見えていない部分が多いだけなんじゃないか、と僕は思っています。

浮世絵を見るとわかるように、日本美術では、雨は線で描かれます。これも目を通して得られる情報を脳が合成する時に、時間軸を長く使っているためではないでしょうか。とすれば、カメラで言うところの露光時間が長いようなものなので、雨が線に見えやすかったのではないかと思うのです。

 

鑑賞者中心に鑑賞できる

 

カメラで対象物の近くに寄って撮った写真をつなぎ合わせてひとつの全体写真をつくったとします(図4)。しかし、それはカメラで遠くから対象物全体を写した写真(図5)とは全く別ものになってしまいます。西洋の遠近法では、近くの視点での(投影面に対象の空間のごく一部が写っている)平面をいくつかつなぎ合わせたひとつの大きな平面はつくることができても(図4)、遠くの視点で空間全体を認識した(投影面に空間全体が写っている)平面(図5)を作ることはできません。

 超主観空間では、空間の一部を細かく認識した平面をつなぎ合わせた平面と、その空間全体を認識した平面は、論理的に同等になります。超主観空間においては、「鑑賞者中心に鑑賞する」ことができます。つまり、ある絵画を、絵画全体を見える位置から見ているときには、その絵画が表している空間全体の中に鑑賞者たる自分もいることになれるだろうし、絵画に近付いて、絵画の一部しか見えない位置から凝視すれば、その凝視している部分が表している空間の中にいることにもなります。(図6)つまり、縦横無尽に好きな場所から絵を鑑賞できるのです。それは「視点が限定されず、視点の移動が自由」であることを意味します。(図7)

日本美術の絵巻やふすま絵は、こうした特性を有しています。絵巻は、机の上などに置いて、左手で新しい場面を繰り広げ、右手で巻き込んでいきながら、自由にスクロールしつつ見ます。つまり、横長の絵を好きなように部分で切り取って見ているのです。そして、ふすま絵は、動くことが前提のキャンバスの上に描いています。次回は

自由に「分割」できる超主観空間がもたらす新しい見方について説明します。


図1:説明テキストなし


図2:説明テキストなし


図3: 説明テキストなし

 

図4:西洋の遠近法で空間の一部を認識した平面をつなぎ合わせた平面

 

図5:西洋の遠近法で空間全体を認識した平面

 


図6:超主観空間で空間の一部を細かく認識した平面をつなぎ合わせた平面


図7:超主観空間で空間全体を認識した平面



GQ JAPAN(2015年3月号/コンデナストジャパン)
2015年1月24日(土)

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