MEDIA

2013.12.24

「GQ JAPAN」(2014年2月号)で、チームラボ猪子の連載。

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」
第六回「ビジネスは、すべてがテクノロジーとなり、そして、アートであった時のみ、生き残っていく(後編)」


ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境のなかのアジアと日本をめぐって思索する人気連載。第6回の今回は、アートがロジックに勝る理由について。


 前編では、デジタル化されていく情報社会においては、これまでのすべての産業区分が無意味化し、すべてがデジタルテクノロジーの固まりみたいになっていく、もしくは、保守的に言って、デジタルテクノロジーと切っても切り離せないようになっていく、という話を、iPhoneを例にとって書きました。

 さて、そうなっていったときに、でも一方で、世界がネットワークで覆われた情報社会では、情報の共有スピードがあまりに速すぎて、あまりにも激しいがゆえに、一瞬で情報を共有できてしまいます。特に言語化できる領域や論理化できる領域は、再現しようとするときに、再現方法を情報として記述しやすいから、一瞬で共有できてしまいます。

 テクノロジーの領域も、論理の塊なので、再現方法が一瞬で共有されてしまいます。つまりテクノロジーは、すごいスピードで世界中で共有され、テクノロジーは、差がほとんどつかなくなっていくのです。

 何が言いたいかというと、言語や論理で再現しにくい領域、もうちょっと人間側から言うと、テンションが上がったり、すごい感動したり、何らかのインパクトを受けるんだけど、その感動を言語で説明したり、論理で説明したりできないような領域、もしくは説明したところでほとんど意味がない領域──、そういうものは、説明しにくいがゆえに再現しにくい、ゆえに再現方法を共有しにくい、再現方法が共有しにくいがゆえに差異を生むということです。競争の差異を生むがゆえに、そういう領域が競争力の源泉になっていくのです。

 たとえば、2000年ぐらいまではマイクロソフトが世界の王だったわけです。マイクロソフトのすごさって、言葉や論理で説明できます。マイクロソフトのアウトプットのすごさは、「エクセルというものが初めて出ました。表計算が簡単になりました。チョー便利!!!」のように説明できます。もしかしたら、まったく言葉で説明できてないかもしれませんが、それは僕の個人的な言語能力のせいであって、少し賢い人であれば、たぶん完璧に説明できると思うんです。エクセルのすごさを論理的に、言葉によって。

 で、マイクロソフトは、いつの間にか、未来とは無関係な会社になっていて、かわりにアップルが、世界最強の会社になりました。アップルのアウトプットのすごさって、言葉で説明できない。「iPhoneというものが初めて出ました。わー、すげーッ!」みたいな感じです。無理やり説明しようとしても、「インターフェイスが革新です」「どこが?」「うーんと、それはね、情報をモノのように触れるようにしたからだよ」みたいな。何がすごいのか全然分からない。でも、出た瞬間は、本当に衝撃がすごかったですよね。

 そして、すごく感動するにもかかわらず、その感動を言語とか論理で説明しにくいような領域を、たぶん、人は、昔から『アート』と呼んでいたんだと思うのです。

 つまり、前編で書いたように、第1ステップとしてすべての産業区分がなくなり、すべてのビジネス領域はデジタルテクノロジーの固まりになります。もしくは、デジタルテクノロジーと切っても切り離せない領域になります。そして、デジタルテクノロジーが弱いところは、いつのまにか、この世界からいなくなります。

 第2ステップとして、そうなった瞬間、テクノロジーは共有スピードが激しすぎて、競争の差異を生みにくくなります。

 第3ステップとして、そういう未来においては、究極的にすべてのビジネスは、企業の存在そのものや、プロダクトやサービス、つまりビジネスのアウトプットが、人がアートのように感動するものでないと生き残れなくなっていくのです。

 20世紀まではアートとビジネスは、まるで違う惑星のような遠い存在だったけれども、21世紀のもうちょっと先に進んでいくと、アートじゃないとビジネスとして成り立たなくなる、そんな時代が来ると思うのです。そして、それは、もうすでに始まっているのです。

 つまり、すべては、アウトプットが、 もしくは存在そのものが、アートであった時のみ、生き残っていくのです。

 だから、上司にパワポで論理的に言葉で説明して、上司が「すごくいい!」と理解した瞬間、もうそれは、きっとダメなものなのです。そして、パワポで論理的に上司を説得しないと新しいことがやれない環境である場合は、すぐさま職場を変えた方がいいかもしれません。

GQ JAPAN(コンデナストジャパン / 2013年12月24日)

2013年12月24日(火)

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