MEDIA

2014.01.27

「GQ JAPAN」(2014年3月号)で、チームラボ猪子の連載。「ルールを破らなくても済む都市、ルールが高度すぎて守りきれない都市」

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」
第七回「ルールを破らなくても済む都市、ルールが高度すぎて守りきれない都市」


ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の代表・猪子寿之の人気連載。拡大版である今回は、シンガポール・ビエンナーレへの出展を通じて見えてきた、シンガポールがなぜ今、アートとピースに溢れているのか、の理由について。


 

シンガポールに来る前は、ルールを破るとめちゃくちゃ厳しい国というイメージがありました。外国人である自分は、シンガポールのルールを全部分かりきっていない。だから、気がつかないうちにルールを破って、鞭打ちになるのではないかとドキドキでした。けれども、いざシンガポールに行ってみたら、東京よりずっと治安もよく、街もずっときれいで、みんな自由にしているし、そもそも警察を一切見ません。気がついたら日本よりずっと気楽に自由にしている自分に気付いたのです。それは、なんでなんだろう、ってことをちょっと考えてみました。


シンガポールは、人々ができるだけルールを破らなくてもいいように設計されているような気がするのです。例えば、歩道の数メートルおきに、ゴミ箱と灰皿があります。目の前にごみ箱も灰皿もあるので、無意識にゴミはゴミ箱に捨て、灰皿の前でたばこを吸います。そのため、東京と比べて3倍近い海外渡航者がいるにもかかわらず、そして、海外渡航者たちはシンガポールのルールを知らないと思うけれど、結果的には、誰もルールを破らず街はきれいなのです。

また、現地で働いている日本人の友人に話を聞いたら、日本では年に何回も交通違反で捕まっていたのが、シンガポールでは捕まったことが4年間で一度もないと言う。なんでかと聞いたら、例えば、シンガポールは必要な場所に駐車場がある上に、全ての車はIT化され、駐車場に入るとき、ゲートもなければ料金支払い所もなく、駐車した時間で自動で引き落とされるシステムだそう。しかも、天井のセンサーによって、どこが空車かがすぐ分かる。つまり、面倒臭いことが一切なく、路駐するよりも簡単に駐車できるので、結果、路駐をしないと言うのだ。実際、街で誰も路駐をしていない。

逆に、日本は、ルールを作ればルールを守るのが当然で、ルールを破るのはその人が悪いというきれいごとの元、なにか問題があるたびに、ルールを作れば問題が解決したと考えているような気がするのです。そして、そのルールが守れない人が多い場合、そもそも何故守れないかを考えずに、違反者を捕まえる人を増やせばいいと考えます。警察だけでは足りないからと、新たにポイ捨て専門と路駐専門の特別部隊までつくっています。その結果、日本の街には警察が溢れ、それだけでは事足りず、特別部隊まで溢れているのです。


そして、日本は、なにかあるたびにルールが足されるので、ルールが超高度に複雑化しています。例えば、東京に海外の喫煙者が来た場合、もしルールを守ってもらうためには、区ごとに外で吸えたり吸えなかったりするので、行く予定の場所を前もって聞き、その場所の区の境界線を道路ごとに写真か動画で教え、携帯灰皿を買わないといけないことを教えないといけません。ましてや、スターバックスで万が一、テイクアウトでもした日には、カップを捨てる場所が一切存在しないので、かばんの中に自分でごみ袋を持参しないといけないことも教えないといけません。コンビニのゴミ箱などに捨てるのはルール違反なので、多分、現状の多くの人は、結果的に、なにかしらルールを破ってしまっているのです。


日本のルールは、複雑すぎます。そしてそれを守るために人々に高い運用スキルを要求しています。それでも、現状が成り立っているので、気にならないかもしれませんが、海外から来た人々がそれを運用しきれるとは思えません。そうなると、ルールを守れない海外から来た人々への偏見や嫌悪が、日本人の中にだんだんと生まれてくるでしょう。東京オリンピックの後、日本人は外国人に対する偏見と嫌悪の塊にならないか心配です。外国人に対して嫌悪感が多いような国に、良い外国人が集まるわけないと思うのです。そうなってしまったら、長期的に海外渡航者に愛されなかったり、優秀な海外の人々が働く場所として選ばれなくなってしまうと思うのです。


ゴミ箱は、単なる一例ですが、多くのことを象徴していると思うのです。合理性が欠如した「きれいごと」や「建前と本音」による複雑で無駄に多いルールは、守る側に非常に高度な運用スキルを要求します。ルールを守りきることが高度なので、ルールを守ること自体が美徳化するという「非常に大きな弊害」を生みます。簡単すぎるルールは誰も意識しませんが、難しいルールは、守れるとかっこいいのです。実際シンガポールで目の前のゴミ箱にゴミを捨てられることは、話題にも上がりませんが、日本でカバンの中にゴミ袋を持参していることはかっこいいのです。つまり、日本ではルールを守れていることに注意が行き過ぎ、イノベーションや高い付加価値など成果を出すことにまで注意がいかず、誰も成果について話題にしません。成果が重要ではなくなるという弊害を生むのです。


社会も企業も、無駄にルールを増やしたり、守らせることに労力を費やしています。でも、そもそもルールを破らないで済むような仕組みをつくったり、本質的に考えてそこまで重要ではないルールを減らしていくことにエネルギーをかける方が、ずっとずっと知的でクリエイティブだと思うのです。そして、ルールを守ること自体が美徳にならなければ、本質的な価値を生み出すことに自然と集中すると思うのです。そして、そんな社会や企業こそ世界中から愛され、選択されると思うのです。


もし、あなたがルールが多すぎる環境にいるならば、ルールを意識しなくてもいいような環境に今すぐうつった方がいいかも知れません。無意識に、あなたの意識は成果にフォーカスがあたり、今よりもさらに成果が出るのではないかと思います。こんなにも成果を出しているシンガポールにいて、そんな風に思ったのです。


GQ JAPAN(2014年3月号/コンデナストジャパン)
2014年1月24日(金)

お問い合わせ

制作のご依頼・ご相談・お見積もりはお問い合わせください

お問い合わせ

採用

エンジニア、ディレクター、デザイナー、アルバイト募集中

採用について