MEDIA

2013.07.24

「GQ JAPAN」(2013年9月号)でチームラボ猪子が連載開始。特集「社長の本棚」にて本の紹介も

連載「日本、アジア、そして21世紀」
第一回「日本のおもてなしは意味を失った!」


デジタル・テクノロジー集団「チームラボ」を引っ張る猪子寿之が、変わりゆくメディア環境のなかのアジアと日本をめぐって思索する新連載。21世紀の価値は20世紀の価値とどう違うのか? そこにフォーカスする議論に要注目である。


日本の強みって?
例えば、政府関連の会議などに出席すると「日本の強み」みたいなテーマでディスカッションすることがよくあります。そして、そういう席ではだいたい「おもてなしが日本の強みだ」みたいなことが話題に上ります。海外とかに行くと、コンビニやタクシーなど、日本のおもてなしの素晴らしさを感じる場面が多々あります。世界のなかで圧倒的に、日本のおもてなしは強い。だから、日本の旅館やホテルは素晴らしいという話になります。たしかに、日本のおもてなしは、世界のなかでも圧倒的です。

けれども一方で、アジアの新しいホテルに行くと、例えば、シンガポールのマリーナベイ・サンズは完璧にIT化されていて、部屋でチェックアウトすることができます。フロントまでいって、チェックアウトしなくてもいい。ひとに会わなくていいのです。IT化されているため、マリーナベイ・サンズは、同じ規模のホテルと比べると従業員の数が少なく、コスト効率がいいのだと思います。そして、その分、屋上に、バカでかいプールがあったりする。

そういうホテルに宿泊していると、フロントでは、ほとんどの場合、待つ時間がおおくを占めていることを思い出します。おもてなしは、たしかに重要ですが、そういった待つ時間がなくなることを考えると、悲しいか、というと、むしろ、嬉しい。せっかく旅行で訪れているのですから、美味しいものを食べたり、観光できる時間が少しでも増えた方が嬉しい。おもてなし、は日本が世界でもっとも素晴らしいけれども、21世紀になって、社会の仕組みが変わっていくなかで、なくせるものなのかもしれない。日本が強みにしている、おもてなしそのものが、意味をなさない社会になってきているかもしれないのです。人と接する時間そのものが、IT化によって、なくせるかもしれない。それは、言葉にすると、冷たい、と感じるかもしれません。けれども、実は、チェックアウトするための待ち時間が発生しないなら、みんな嬉しい。

新しい仕組みのおかげで人件費などが合理化され、その分、バカでかいプールがホテルの屋上に設置してあったり、これまでの社会では見たことのないものを作ることができる。ディティールへのこだわりよりも、IT化して、人件費をさげて、ありえないものをつくる。その方が、今、求められている気がします。

もちろん、日本の旅館に行き、おもてなしをされると、嬉しいか嬉しくないか、というと嬉しいけれども、その分、夕ご飯の時間が決まっていたり、色んな時間の制約があったりする。夕ご飯の時間がきまっているくらいなら、好きな時に食べられた方が嬉しい。おもてなしを、ソーシャルメディアにアップしようと思ったことはなくても、みたことのないプールは撮影して、アップしたくなる。今の人は、そういうあり得ないものを携帯で撮影して、ソーシャルメディアに上げてくれる。おもてなし、とかはソーシャルメディアに上がらない。ソーシャルメディアに上がると、世界に広がっていくし、それを見たみんなが、訪れたくなる。


部屋にスイッチがない

少し話は変わりますが、先日宿泊した、ホテルの場合、例えば、スイッチが部屋にありませんでした。枕元にタブレットが置いてあって、そのタブレットで、部屋の照明やエアコンの調整もできるし、もちろんアラームも設定できる。毎回、従業員が説明したりしなくても、部屋のどこの照明がつけられるのかなどが、誰でもすぐ分かるようになっていました。いちいちフロントに電話して、モーニングコールするよりも、部屋ですべてが解決する方が楽です。従業員が、すごいおもてなしで部屋を説明してくれたり、すごいおもてなしで電話の対応をしてくれたり、それはとても素晴らしいことですが、そもそも、電話したり、説明されたりしなくても、スイッチそのものがなくなっていて、客が自分でできるようになっていたら、じつは、嬉しいものです。その分、みたこともないメディアアートが、ホテル内に散りばめられていたら、テンションが上がります。そして、それらのみたこともないものを撮影して、ソーシャルメディアで共有したい。それが今の、普通の感覚なんだと思います。これからの時代、つまり情報革命後の社会とは、残念ながら20世紀の延長ではないかもしれないのです。

これからの時代、つまり情報革命後の社会とは、残念ながら20世紀の延長ではないのかもしれないのです。そして、それは、世界でもっとも強いと思っていた強みが、そもそも、その機会がなくなっているかもしれないということなのです。



社長の本棚
すべての本が電子書籍ならいいと思ってますよ。だってサーチかけられるでしょ。情報はサーチできてナンボ。電子書籍化されてないから、仕方なく紙の本を買ってるだけ。ただ漫画は読みますよ。少年ジャンプ、ヤンマガ、スピリッツ、モーニングにヤンジャンを、毎日1冊のローテーションで。
(本文より抜粋)
※計5冊を紹介しています
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GQ JAPAN(2013年9月号/コンデナストジャパン)
2013年7月24日(水)

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