MEDIA

2014.02.23

「GQ JAPAN」(2014年4月号)で、チームラボ猪子の連載。「価値観が同じになってきた世界、すごく離れていく同じ国の世代間」

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」
第8回「価値観が同じになってきた世界、すごく離れていく同じ国の世代間」


ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境のなかのアジアと日本をめぐって思索する人気連載。第8回の今回は、価値観が均一化されつつある若い世代について。



去年の秋から冬にかけて、海外の大きな展覧会で、巨大な作品を発表する機会がありました。ひとつは、シンガポールアートミュージアムで開催された「シンガポールビエンナーレ」。無数の等身大のホログラムによるインタラクティブな彫刻群「秩序がなくともピースは成り立つ」を展示しました。もうひとつは、香港アートセンターの「Distilling Senses: A Journey through Art and Technology in Asian Contemporary Art」。無数の光の球体が浮遊している空間「世界は、均質化されつつ、変容し続ける」では、鑑賞者が触れると色と音が連鎖しながら変わっていきます。日本の美術館や展覧会でこんな大きな展示の機会を頂いたことがないにも関わらず、機会を頂けたのは非常に光栄なことなのですが、不思議にも思います。


そのことについて少し考えてみました。たぶん、理由はシンプルです。呼んでくれた国は、決定権を持っている人が若いのです。もしくは、若い人が多く活躍しているのです。

20世紀までは、国とメディアが対応していました。当たり前ですが、日本の人は、日本のテレビ局のテレビを見て、日本の新聞社のニュースを読んでいました。国が違えばメディアも違うので、国ごとに接している情報はまったく違うものでした。なので、国民的歌姫みたいな言葉があったくらいです。日本の人は全員超好きだけど、海外ではまったく知られていないということが普通でした。つまり、国ごとに接しているメディアが違うので、国が違えば価値観が大きく異なっていたのです。文化的外交を目的とした会議に呼ばれて参加すると、年配のエライ人達は、こぞって、文化の相互理解が最も重要だと言います。つまり、20世紀は、国ごとに文化的価値観がまったく違うということが大きな課題だったのだと、なんとなく想像できます。

今は、ソーシャルメディアに接している時間が圧倒的に増えています。フェイスブックで友達の出来事と、友達から共有されたユーチューブの動画を見ています。そして、そこには国境はありません。世界中共通のプラットフォームで自分が選んだ人間関係経由の情報に接しています。世界中の人々が同じメディアで、同じ方法で情報に接しているのです。さらに、非言語なコンテンツになった瞬間、世界中が同じメディアで同じコンテンツを見ているのです。

結果、世界中の同世代は、価値観がそんなに違わなくなってきています。そして、世界中、世代間の価値観がすごく離れていっているのです。特に、情報社会後の世代と、情報社会前から活躍している世代で大きく価値観が違ってしまっているのです。20世紀で言う、外国の人のように。

日本は、50代以上が金融資産の80%を持つという人類史上最大の異常な富の世代間格差があるので、若者は生きていくために、自然と古い価値観に合わせてしまいがちです。子どもが狼に育てられると狼になるという伝説があるように、人は、環境による影響が大きいのです。日本の若者は、若者が活躍しているアジアの国の同じ世代に比べ、20世紀的な価値観を懐古主義的に持っているような気がします。新しい世代は、新しい社会で生きていくわけですから、20世紀に侵されないように、強く気をつけなければいけないのです。20世紀に、日本の先輩方が海外の人々と価値観が違うにも関わらず、信頼関係を作って世界とビジネスをやってきたように、価値観が違うまま、信頼関係をつくっていくのがいいかもしれません。




GQ JAPAN(2013年4月号/コンデナストジャパン)
2014年2月24日(月)


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