MEDIA

2014.03.23

「GQ JAPAN」(2014年5月号)で、チームラボ猪子の連載。「ファッションは、記号から、テンションと身体へ」

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」

第九回「ファッションは、記号から、テンションと身体へ」


ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境のなかのアジアと日本をめぐって思索する人気連載。第9回の今回は、ブランドを着ない天使の話。



ファッションの役割って昔は他者との関係性のためにすごく重要だったと思うのです。特に、第一印象においては。


大昔は、自分がどのような階級であるかをわかりやすく表現するものだったし、近代では、単純な階級ではなく、自分が社会の中で、信頼できる人間であるだとか、クリエイティブであるだとか、他者からどのように思われたいかを表現する役割を持っていたと思うのです。ファッションは、自分と社会との接点を作る役割を持っていたのです。


20世紀では、ブランドという記号まで加わり、そのことが加速され、みんなでその記号を楽しんで消費していました。無意識にしろ、他者からどのように思われるのか、どのように思われたいかというようなことを考えて、服を選んでいたし、そのことを楽しんでいたのです。しかし、そのためには、その服がどのようなイメージを持つかという情報を、他者と共有していることが前提でした。例えば、ブランドのロゴに関しても、他者が、そのブランドはどのようなイメージを持つか、どのような価値を持つかという情報を共有していることによって、成り立つのだと思うのです。大げさに言うと、そのロゴの記号の価値を他者と共有しているからこそ、記号に価値が生まれるわけです。


でも、21世紀になりインターネットが普及し情報社会がはじまり、情報が超大爆発したことで、人間が共通の情報を持つことが不可能になってきました。他者と前もって共有している情報がほとんどなくなってきたのです。なくなってきた時にどうなるかというと、2つの方向性が生まれます。


ひとつは、どうせ共有できないから、他者や社会は一切関係なく、自分の気持ちが良いかどうか、自分のテンションが上がるかどうかを重要視する方向です。
例えば、昔は親指のネイルにクリスタルをつけていた女の子が、いまは人差し指につけていたりします。なぜなら、携帯がスマートフォンに変わって、自分の視界にもっとも入る指が、親指から人差し指に変わったからです。他者よりも、自分の視界の方が大切になってきたのです。「キラキラ」が視界に入ると、人はテンションが上がりますから。

オタクと呼ばれる人達が、ネット時代以降、急増しているのは、ファッションという1つのカテゴリーとは関係なく、その人にとって、今もっともテンションが上がるものがファッションじゃなくてアニメなだけで、もし、そうであるなら、ブランドのロゴをつけるよりも、自分の大好きなアニメのキャラがついたものを身に着けた方が、全然、自分がテンション上がるからなのです。


もうひとつは、文脈なしに共有できるものを重要視するという方向です。例えば、人間も所詮生物なので、生物レベルで反応するものは文脈なしに共有できます。その1つは、身体そのものです。


だから、80年代、90年代のように記号を買うよりも、21世紀は、整形も含めて広い意味で美容にお金を使うとか、どれだけうまく化粧をするかとか、瞳を大きくみせるためカラーコンタクトにするとか、美肌効果のある化粧品を買うとか、ジムに通うとか、みんな身体そのものを美しく見せようとしています。ファッション誌も、情報社会前は、パリコレが重要でしたが、今は、かわいく見える化粧の仕方の方が重要です。高度な文脈を知るよりも、生物レベルで化粧によって「だます」ノウハウの方が重要なのです。

クラブで人気のDJも、90年代は、音楽に詳しいことの方が重要だったのですが、今のクラブの人気DJは、イケメンとかわいい子ばかりなのも、そのような方向の現象な気がします。

そして、冒頭で、人間の第一印象において、ファッションは重要だったと言いました。

実は、何よりも大きい変化は、第一印象が、多くのネット世代にとって、リアルな場ではなくネットになっているのです。初めてその人を知るのが、フェイスブックやブログや、ユーチューブになったのです。そして、万が一、初対面がリアルな場だったとしても、あとで充分に情報を知ることができるくらいネットに情報があったりするのです。簡単に言うと、第一印象は重要だけれど、第一印象に影響を与えるのは、ファッションではなく、フェイスブックの顔写真だったりするのです。なので、ネクタイをちゃんと結ぶことよりも、自撮りでかわいい写真を撮るテクニックの方がその役割を担ってきているのかもしれないのです。




GQ JAPAN


GQ JAPAN(2014年5月号/コンデナストジャパン)
2014年3月24日(金)

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