MEDIA

2014.04.23

「GQ JAPAN」(2014年6月号)で、チームラボ猪子の連載。「日本の文化は、実は、情報社会と相性が良い」

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」
第十回「日本の文化は、実は、情報社会と相性が良い」



ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境のなかのアジアと日本をめぐって思索する人気連載。第10回の今回は、日本は「強いコンテンツ」を作りやすいのに、という話。



日本文化の中で世界を熱狂させたもの、つまり日本文化の中で世界で競争力があったものと言えば、マンガやアニメ、マリオやポケモンのようなゲーム、そして初音ミク。これらの共通の特徴は何でしょうか? 僕は、日本の文化の特徴は、「非実在文化」だと思っています。例えば、アニメやマンガのワンピースのルフィは絵なので実在しませんし、初音ミクもソフトウェアなので、実在しません。それに対して欧米の文化は、「実在文化」です。ハリウッド映画のタイタニックの主人公は、実在するディカプリオが演じていますし、レディー・ガガももちろん実在します。


日本では、同人誌即売会のコミケやイラスト投稿サービスのピクシブのような二次創作分野が盛り上がっています。二次創作とは、コンテンツの受け手であるファンが、オリジナルの作品のキャラクターや設定を借りて創作することです。そして、日本で二次創作の文化が盛り上がっていることと、日本文化が非実在文化であることは、関係しているのです。非実在文化は、本物と偽物のような概念を生みにくいのです。例えば、誰かが描いた初音ミクを、誰も偽物などとは思いません。そもそも、初音ミク自体実在しないからです。つまり、非実在文化は、コンテンツの創り手と受け手の境界が、あいまいになりやすい、もっと言うとコンテンツの受け手が創り手になりやすく、誰しもが、みんなが喜ぶコンテンツを創りやすいという特徴があるのです。オリジナルの作品で、みんなが喜ぶコンテンツを創るのは極めて難しいことですが、ワンピースの大ファンにとっては、ワンピースのキャラクター達がそのまま出てくる、誰かが創ったアナザーストーリーは、是非、読んでみたいのです。 


一方、実在文化は、創り手と受け手の境界がはっきりしています。例えば、僕がディカプリオの変わりに演じたタイタニックは、それは明らかに偽物であり、そして、滑稽でしかないのです。誰かがディカプリオの変わりに演じたタイタニックのアナザーストーリーなんて観たいと思わないですよね。


レディー・ガガは、ファン達が自身の歌を歌いネットに上げることを、非常に奨励し、応援しています。しかし、当たり前ですがファンはレディー・ガガではないのです。彼女の言葉を借りても、レディー・ガガがマザーモンスターで、彼女の歌を歌っている人々はリトルモンスターなのです。そこには、誰が見ても大きな境界と区別があるのです。


歴史を紐解くと、日本の能や、人形浄瑠璃、歌舞伎も、欧米の演劇に比べれば、非常に非実在的とも言えます。人形浄瑠璃は、完全に非実在文化ですし、能の能面や型という概念が、生身の人間が演じる演劇をより「非実在化」し、創り手と受け手をあいまいにしているのだと思います。つまり誰しもが見るだけではなく演じ手になりやすいのです。織田信長が桶狭間の戦いの前夜、「人間五十年……」と謡い、舞った有名なエピソードがあるように、信長は敦盛を見るだけではなく自ら演じもしたのです。シェークスピア好きの欧米の偉人が、戦いの前夜、ロミオとジュリエットを演じることは、もちろんしないのです。


ちなみに、「型という概念による非実在化」という文化的特性は、仮面ライダーやウルトラマンの変身ポーズなどに引き継がれ、今では、アキバのメイド喫茶のかわいく見えるポージングへと継承されました。子どもたちはみんな、変身ポーズのおかげで仮面ライダーになりきれて、アキバのメイドさんたちは、ポージングの嵐によってみんなかわいいメイドになりきれているのです。


話をまとめると、日本の文化は、長い歴史の中で、非実在文化という文化を連続させながら、発展してきたのです。そして、その非実在文化によって、二次創作のように誰しもが創り手になりやすくなったり、誰しもが演じ手になりやすくなったりし、高いクオリティのコンテンツを生みやすくなったのです。


20世紀のマスメディアや映画は、創り手が創った完璧なコンテンツを放送したり、一挙に流通させたりし、受け手はそれを消費するというものでしたが、インターネットは、すべての人々がコンテンツを受け取るだけではなく、発信できます。もっと言うと、すべての人々が発信できる今、人々はコンテンツの創り手になりたいのです。例えば、フェイスブックにアップするために必死で写真を撮っている光景をよく見ますよね。つまり、ネットでは、創り手になりやすいコンテンツこそが、強いコンテンツなのです。つまり、インターネットを中心とした情報社会と、非実在文化は、非常に相性がいいのです。


非実在文化を長い歴史の中で発展させてきた日本には、情報社会において、飛躍する可能性がとてもあるのです。


しかし、日本は、日本文化の特徴が欧米の文化の特徴と全く違うことを理解しないまま、そして情報社会がどのような社会か理解しないまま、20世紀までのアメリカのコンテンツ政策や法制度を受け取り、強化しているような気がするのです。20世紀までの社会と極めて相性が悪かった日本文化が、せっかく、極めて相性が良い情報社会が到来したことによって、大爆発するポテンシャルを持っているにも関わらず、日本は、自ら日本文化の特徴を殺そうとしているのです。



GQ JAPAN


GQ JAPAN(2014年6月号/コンデナストジャパン)
2014年4月24日(金)


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