MEDIA

2014.06.24

「GQ JAPAN」(2014年8月号)で、チームラボ猪子の連載。

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」

第十二回「文化は連続している、歌舞伎の「見得」、仮面ライダーの「変身」、メイドの「萌え」、アイドルの「振り付け」」


チームラボの代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境を思索する人気連載。今回は、文化は保守するものではないのだ、という話。


 以前、「非実在文化」の回でも話しましたが、今回は、文化は自分たちが思っている以上に連続しているという話をしたいと思います。


 例えば、歌舞伎の偉大な発明は、「見得を切る」に代表されるように、誰がやってもかっこよく見えるという「ポーズ」だと思っています。西洋だと、演技というものは、その人の個性を生かすことが、いい演技。例えば、映画「ゴッドファーザー PART III」で、アル・パチーノが、目の前で娘を殺されて悲しむ時の演技というのは、素晴らしい表現なのです。それを、アーノルド・シュワルツェネッガーがまったく同じ悲しみを表現したところで、それは素晴らしい演技とは言われません。でも、歌舞伎は、誰がそれをやってもかっこよく見えるポーズを発見したのです。それはすごい発見で、その当時、多分、めちゃくちゃすごいイノベーションがたくさん起きたのだと思うのです。だからこそ、当時すごい人気だったのかもしれません。


 いつのまにか、歌舞伎の場ではそういうイノベーションが少なくなり、でも気がついたら、日本のアニメや特撮が、「3点着地」という着地のポーズ(両足と片手で着地し、最後に頭を振りあげてキメ顔をするという一連の動作)だとか、仮面ライダーに代表される「変身」ポーズというような誰がやってもかっこよく見えるポーズを発明しています。「3点着地」のポーズは、ハリウッドなどにもマネされ超多用されるくらい多くのアニメや映画で使われています。その「3点着地」のポーズは、どことなく歌舞伎の「見得を切る」のポーズがあったから、生まれた気がするのです。もちろん「3点着地」を発明した人は無意識だと思うのですが。


 そして、昨今は、秋葉原のメイドさんが、不細工でもかわいく見えるポーズを毎日のようにクリエイションしています。2001年頃と比べれば、誰も想像できなかったほど進化しています。はじめは、「にゃんにゃん」のように大胆なポーズがいくつかあっただけだったのに、いつのまにか、ひとつひとつの細かい「かわいく見えるポーズ」の連なりによって、淀みなく作り上げられるようになっているのです。店に入った瞬間は別にかわいい子なんていないと思っていたのに、コーヒーを入れてもらったり、料理がおいしくなるようにオマジナイをかけてもらったりしている間に、かわいく見えはじめて恋に落ちてしまうくらいです。そしてそれらは、アイドル達に受け継がれているのです。大胆な言い方をすれば、ポーズを発明しまくっていた江戸時代の歌舞伎の文化の本質的な部分は、現在のアイドル達が受け継ぎ、伝統を守っているとも言えるかもしれないのです。だからこそ、現在のアイドル達は、江戸の歌舞伎のように圧倒的な人気を博しているのかもしれません。そして、もちろん、歌舞伎の前には、能が「型」を発明していて、その「型」の発明があったからこそ、誰もがかっこよく見える大胆なポーズが発明されたのでしょう。ひとつひとつの細かい「型」の連なりによって、淀みなく作り上げられている能という文化の本質的な部分が、現在のアイドルに受け継がれていると思う所以です。


 他にも、例えば、超自然的な別の存在になるために発明された能面があったからこそ、人間を超越した、まるで超自然的な存在である仮面ライダーの創造につながったのではないかと思うし、2次元のキャラという超自然的な存在に憑依するためとも、単に2次元のキャラに近づこうとしているとも言えるコスプレ文化と連続しているかのように思えるのです。そして、2000年代前半にヤマンバやマンバまでいきついた完全に理解不能なギャルの化粧も、人形浄瑠璃の人形に近づこうとして発明された歌舞伎の隈取(紅と墨を用いた派手な化粧)を見れば、なんとなく理解できなくもないのです。


 結局、クリエイティビティというものは、自分達が認識している以上に、個人などをはるかに超越して、文化の上に成り立っていると思うのです。文化というもの自身が、長い歴史の中で、非言語的に、そして、無自覚に連続しながら、新たな文化を生んでいるのです。


 そして、文化を継続するということは、文化のアウトプットそのものを保全することではなく、大胆な言い方をするならば、無自覚に、そして自由に、時代に合わせて熱狂するような新しい文化を生むことなのだと思うのです。なぜなら、多くの熱狂する文化は、実は、自分達の生まれ育った文化の本質的な部分を受け継いでいるからです。時代を熱狂させる新たな文化こそが、次世代の人々に、文化の本質を継承させていく契機となっているのです。そして、文化の連続性こそが社会にクリエイティビティを生んでいくのです。歴史と伝統を、そして文化を愛せば愛すほど、新たに生まれるすべての文化を肯定し、自由に新たな文化を創造しよう、そんな風にまで思うのです。


GQ JAPAN

 

GQ JAPAN(2014年8月号/コンデナストジャパン)
2014年6月24日(火)

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