MEDIA

2014.11.30

『GQ JAPAN』(2015年1月号)で、チームラボ猪子の連載。

連載「日本、アジア、そして21世紀 拡大版」
第十七回「
デジタルという概念が美を拡張する」


チームラボの代表・猪子寿之が、変わりゆくメディア環境を思索する人気連載。今回は、デジタルがアートにどのような影響を与えたかについて。


前回は、デジタルという概念が、美の概念を拡張できると僕らは信じているということ(①)。古来、人類が長年培ってきたにもかかわらず、近代社会とは相性が悪かったために捨てられたものがあり、その中に、新しい社会のヒントがあるのではないかと信じているということ(②)。そして、少なくとも、古来の日本の空間認識は、デジタルによって拡張された美と、相性がよい部分がある(③)─という話をしました。


今回は、①のデジタルという概念が美をどのようにして拡張するかについて、もう少しくわしく説明します。


さて、いきなりですが、デジタルによって情報は、物質から解放されます。デジタル以前は、情報は、質量を持つ物質に媒介されないと存在することができませんでした。


例えば、絵画にフォーカスを当ててみましょう。絵画は、キャンバスや絵の具という物質に媒介されることで、存在できました。絵画は、人間の表現であり、表現とは、情報なのですが、情報は、物質がなければ存在できなかったのです。そして、表現は、物質とセットであったために、固定的に存在していました。つまり、絵画は固定的な存在だったのです。けれども、デジタルによって、物質から解放され、表現は表現単独で存在することができるようになったのです。「変容的」に存在できるようになったのです。その結果、デジタルが登場する以前ではできなかった表現が表現できるようになりました。


そのほかにも、デジタルテクノロジーによって、作品は、「変化そのものをより自由に、より厳密に表現」することができるようになりました。作品そのものがどのように「自らを永遠に変化」させるかということも 表現できます。そして、鑑賞者や作品が置かれている環境や状況によって、どのように作品を変化させるかということも表現できるようになったのです。つまり、鑑賞者と作品に「インタラクティブ」にすることで、鑑賞者が作品へ容易に「参加」することができるようになったのです。


さらにいうと、鑑賞者の存在やふるまいによって、作品の瞬間が決定されるので、鑑賞者と作品との境界線はあいまいになります。作品は、鑑賞者を含めて作品となっているのです。例えば、デジタル登場以前の絵画は、鑑賞者から作品が独立しており、見る側と見られる側の境界線は はっきりしていました。そして、鑑賞者は、独立した個人として、作品と対峙していました。モナリザの絵画は、5分前に誰が見たかとか、同じ空間に誰がいるかといったことによっては、基本的に変わらないのです。鑑賞者ひとりひとりが、モナリザという作品を見てどのように感じ、どのようなことを考えるかが重要なのです。作品は個人との関係の上に成り立っているのです。けれども、鑑賞者を含めて作品になっていくということは、作品と鑑賞者はより一体とっていき、作品と個人との関係を、作品と集団との関係に変えていくのです。そして、作品と集団という関係に変わるということは、作品に対峙している「鑑賞者同士の関係性に影響」を与える可能性をこれまでよりも大きく持っているということです。


また、プロジェクションマッピングによる巨大な作品を例にあげるまでもなく、作品が物質から解放されることによる変容性により、デジタルは、作品の「容易な拡大」を可能にしました。もしくは、作品が置かれる空間への、より自由度の高い「空間適応性」も可能にしました。つまり作品は、より巨大化し、そしてより空間化しやすくなっていくということです。鑑賞者は、作品をより直接に「体感」するようになるのです。


デジタルという概念は、美を拡張します。それは、美を、鑑賞するだけのものから、参加、体感するものへと拡張していくのです。そして、デジタルによる作品は、空間そのものを拡張し、作品の前の人々の関係性にも影響を与えるのです。


チームラボが手掛けている『学ぶ!未来の遊園地』というプロジェクトは、デジタルによる作品が、空間そのものを拡張し、その空間にいる人々の関係性に変化を与えることの可能性にフォーカスを当てて実験をしている企画です。


次回は、②の古来、人類が長年培ってきたにもかかわらず、近代社会とは相性が悪かったために捨てられたものがあり、その中に、新しい社会

のヒントがあるのではないかと僕が信じていることについて、書きたいと思っています。


GQ JAPAN(2015年3月号/コンデナストジャパン)
2014年11月22日(土)

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